人はどうやって色を見分けるのか — 錐体と反対色過程
光が網膜の3種類の錐体を刺激し、脳がその信号を赤–緑・青–黄・明るさのチャンネルに分け直す過程をたどりながら、色を見分けるしくみを解説します。
色は物体そのものに備わった性質ではなく、光と目と脳が一緒になって生み出す知覚です。色をどれだけよく見分けられるかも、この3つの段階それぞれの特性によって決まります。
第1段階:3種類の錐体
網膜には、明るい場所で色を担当する錐体が3種類あります。最もよく反応する波長によって、一般にL錐体(長波長、約560nm付近)、M錐体(中波長、約530nm付近)、S錐体(短波長、約420nm付近)と呼ばれます。
1つの錐体だけでは波長を伝えられません。どの波長であれ、吸収すれば同じように信号を出すだけです。色は3つの錐体の反応の比率で決まります。そのため、スペクトルがまったく異なる2つの光でも、3つの錐体を同じ比率で刺激すれば同じ色に見えます(条件等色、メタメリズム)。画面が赤・緑・青の3色の光だけで無数の色を再現できるのも、このためです。
L錐体とM錐体は感度曲線が大きく重なっています。赤–緑の識別はこの2つの曲線のわずかな違いから生まれるため、遺伝的に一方の錐体がなかったり曲線がずれたりすると、赤–緑の識別が弱くなります。北欧系の男性の約8%、女性の約0.5%が赤緑色覚異常であるという報告があります(Birch, 2012)。
第2段階:反対色チャンネル
錐体の信号はそのまま脳に届くわけではありません。網膜と視床を通る間に、差分として計算し直されます。
- 明るさのチャンネル:L + M信号の和。明暗と形を担当します。
- 赤–緑のチャンネル:L − M信号の差。
- 青–黄のチャンネル:S − (L + M)信号の差。
このしくみを反対色過程といいます。19世紀にヘリングが、「赤っぽい緑」や「黄色っぽい青」は思い浮かべられないという観察から提唱し、HurvichとJameson(1957)が定量的に裏づけました。CIELABのa*(緑–赤)、b*(青–黄)、L*(明るさ)の軸も、このしくみをまねたものです。
どの色でより敏感なのか
スペクトル上の1つの波長を少しずつ変えながら、違いに気づける最小の波長差を測ると、青緑(約490nm)と黄〜橙(約580〜590nm)付近で最も敏感で、スペクトルの両端では鈍くなります(Wright & Pitt, 1934)。2つの反対色チャンネルの信号が、波長に応じて最も急激に変わるのがこのあたりだからです。
S錐体の特殊な事情
S錐体は錐体全体の約5〜10%しかなく、視野の真ん中(中心窩の最も内側)にはほとんどありません。そのため、青–黄方向の差は小さな面積では特に見分けにくくなります。グリッドが8×8に大きくなってマスが小さくなると、青・黄系の問題が難しく感じられる理由のひとつです。
第3段階:脳による解釈
脳は周囲の文脈を利用して色を解釈し直します。同じグレーでも、暗い背景の上では明るく、明るい背景の上では暗く見えます(同時対比)。照明が変わっても白い紙を白と感じる色の恒常性も、脳による補正です。このテストがグリッドの周りを中性グレーに固定しているのは、こうした文脈効果が問題ごとに変わらないようにするためです。
年齢と色の識別
年齢を重ねると水晶体がしだいに黄色くなり、短い波長の光が届きにくくなります。その結果、青–黄方向の識別が先に鈍くなる傾向があり、照明が暗いほど顕著になります(Knoblauchら, 1987)。同じ人でも、疲れ、照明、時間帯によって結果がぶれることがあります。
このテストで測っているもの
HueSenseが見ているのは、3つの段階をすべて経た結果、つまり画面上の2色の違いに気づく力です。錐体一つひとつの機能を測る医学的な検査ではなく、色覚異常かどうかを判定するものでもありません。
参考資料
- Hurvich, L. M., Jameson, D. (1957). An opponent-process theory of color vision. Psychological Review 64(6), 384–404
- Wright, W. D., Pitt, F. H. G. (1934). Hue-discrimination in normal colour-vision. Proceedings of the Physical Society 46(3), 459–473
- Birch, J. (2012). Worldwide prevalence of red-green color deficiency. JOSA A 29(3), 313–320
- Knoblauch, K. et al. (1987). Age and illuminance effects in the Farnsworth-Munsell 100-hue test. Applied Optics 26(8), 1441–1448